ゆとり社員ちゃん、転職する。~エピソード0~

ゆとり社員ちゃんシリーズ
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──転職、都内、事務職。

23時発の電車に揺られながら、ことりはスマホで検索する。転職求人サイトはどこも似たような情報しか載っていない。「アットホームな職場」だの「成長できる環境」だの、胡散臭いコピーばかりだ。
自然と興味がそがれて、ついつい指がSNSアプリを押してしまう。

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△△:3月のオンリーイベント参加します!
◆◆:新刊は委託販売と通販もあるよ!
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──あー、もうそんなシーズンかぁ……

タイムラインに流れてくるのは、フォローしている神絵師さんやオタク友達による祭の気配。原稿の進捗ツイートや現実逃避のラクガキが流れてくるのをチェックして、いいねボタンを押していると、専門学校時代の親友からダイレクトメッセージが届いた。

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なお:ことちん!冬コミ来れなくて残念だったね。
今度のオンリーはどう?
うちは委託おけマルだよ!
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──なおつん……! 前回もその前も行けなかったのに誘ってくれるんだ……でも……

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こと:ごめん、残業続きでネタ枯渇~。
なおつんの新刊は通販で買わせてくりゃれ
なお:おけマル!なおは、ことちんの新刊を永遠に待つ!
ハッまさか……ジャンル替え?死刑死刑
こと:ちがうよwほんとのほんとに多忙のすけ。
新刊がんばってくりゃれ~

:ありがと!ことちんも仕事がんばってね!
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最寄り駅に着いたので、ことりはスマホをコートのポケットにしまう。電車のドアに一瞬映った自分の顔には、「仕事辞めたい」と書いてあった。

──専門学校時代は、なおつんたちと同人誌出したりコスプレ合わせたりして、楽しかったな……

会社員として稼いだお金を、もっとオタ活に費やせると思っていた。実際は、毎日残業続きで土日も死んだように寝てしまうので、オタ活に捧げる時間も体力もない。毎食がコンビニ飯、繁忙期はタクシー帰りなのでお金が貯まるわけでもない。
「……ただいまぁ」
一人暮らしの部屋に、寒々しく声が響いた。とりあえずエアコンをつけ、瀕死のスマホを枕元の充電器に差し、コートのままでベッドにダイブする。
「やばっ、アニメ始まってるじゃん!」
飛び起きてテレビをつける。かといって、かじりついて見るほどでもない。マンガでも読もうかな、とソファ横のカラーボックスを漁る。
「あ……ペンタブ、こんなところにしまったんだっけ」
乱雑に詰め込まれたコミックの隙間に、専門学校自体から愛用しているペンタブが押し込まれていた。なおつんとのやりとりを思い起こしたことりは、なんとなくノートパソコンを起動してペンタブをつないでみた。
アニメを観るのもシャワーを浴びるのも忘れて描いた。
だけど、完成しなかった。
深夜番組のざわめきが止み、放送休止の信号でことりは目を覚ました。どうやら寝落ちしてしまったようだ。
「……うわ、もう3時!? やば、シャワーどうしよ。せめてメイクだけでも落とさないと」
寝ぼけたままで洗面台に向かう。いつの間にか取り落としたペンタブのペンを蹴とばしたことにも気づかなかった。

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