映画版『風の谷のナウシカ』の物語構造を分析する

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宮崎駿『風の谷のナウシカ』を、ウラジミール・プロップの唱える7つの役割と31の機能にあてはめて、その物語構造を分析しよう。という試みです。

ウラジミール・プロップって誰やねん?

構造分析ってなんやねん?

……ですよね!

とても雑に言うならば……
ソ連の魔法昔話研究者であるプロップさん曰く、
「どんな物語も、役割と機能で分解できるよ!」
ということらしいです。ザッツ・雑。

プロップさんのことや、構造分析のことについて詳しく知りたい方は、目次からいったん最終章までジャンプしてください。

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『風の谷のナウシカ』登場人物を7つの役割に当てはめてみる

ウラジミール・プロップの『昔話の形態学』によれば、物語に登場するキャラクターは7つのタイプ(=役割)に分類できます。
人物に限らず、動物や精霊、擬人化されたモノなどもキャラクターに含まれます。

敵対者 (加害者)トルメキア(クシャナ)、ペジテ
贈与者 (提供者)王蟲(または腐海?)
助力者アスベル
派遣者 (送り出す者)ユパ(または大ババ様)
主人公 (犠牲者/探究者)ナウシカ

まずは、敵対者
主人公に敵対し、害を与える存在です。
これは風の谷を襲う2つの国を挙げました。特に、トルメキアの姫将軍・クシャナ殿下は、ナウシカの父ジルを殺し風の谷を軍の支配下に置きました。敵役として十分なはたらきをみせています。

贈与者は、魔法の手段や助手を与える存在です。
魔法の手段という訳がわかりづらいのですが、要は物語を押し進める情報や道具、キーワードなどです。『ナウシカ』においては、腐海の秘密、毒を浄化しているという真理でしょうか。
腐海の蟲や植物のなかでも意思をもってナウシカに接触する王蟲が贈与者にあたると考えます。ナウシカとコミュニケーションを取り、ナウシカに腐海の真理を見せようとしたのです。

ナウシカはほとんど自力で問題を解決していくので、助力者らしい助力者はいないように思えました。とはいえ、腐海の底に落ちたとき、ペジテの船から脱走するとき、いつもそばにいたのはアスベルです。原作ではやや影が薄い彼を、ここでは助力者として挙げました。

ナウシカは自らの意思でトルメキアに従軍し、腐海の秘密を知ろうと行動していますので、派遣者という役割もあまり重要ではないかもしれません。ですが、腐海の秘密を知ろうと放浪していたユパの手助けになりたい、というのがナウシカの腐海遊びの動機のひとつなので、派遣者にはユパを上げました。「その者青き衣を~」という予言をもたらした大ババ様も当てはまるかもしれません。

主人公はもちろんナウシカです。敵対者によって攻撃される犠牲者であり、腐海の秘密を知ろうとする探究者でもあります。

このほかにも、プロップの『昔話の形態学』では「王女とその父親(探求される者)」と「偽主人公」という役割があるとされています。いずれも物語のパターンおよび展開にそぐわないため、ここでは割愛しました。

椥辻夕子
椥辻夕子

原作版を読むと、偽主人公にはクシャナ殿下が当てはまるような気がしますが、映画版ではそこまで描かれていないのでここでは除外します。

映画版『風の谷のナウシカ』のあらすじを31の機能に当てはめてみる

これらの役割を担うキャラクターたちが、行動することで物語が進んでいきます。プロップは、その行動を「機能」と表現して31の機能に分類しました(実際は、物語の導入という機能を含めて合計32)。

31の機能は基本的には1から順に発生しますが、物語の展開によっては順番が前後したり割愛されたりするとのこと。実際、映画版『風の谷のナウシカ』の場合も、8や13が先に繰り上がっていると考えられます。

さらに、21以降はプロップの専門分野であったソ連の魔法昔話の特徴的な構造です。いったん勝利し解決したと見せかけて、偽の主人公の登場により再び波乱の展開が訪れるのが物語の定番なのです。映画版『ナウシカ』では偽の主人公にあたるキャラクターは登場せず、物語は20の帰還で結末を迎えています。

 

椥辻夕子
椥辻夕子

というわけで、映画版『ナウシカ』のあらすじを1~20の機能に当てはめて、私なりに分類・分析した結果をまとめました。

1不在 家族の一人が家を留守にする
家族の一人=ユパ。腐海にのまれた町を放浪する。
ユパの不在がナウシカの腐海遊びを誘発したと考えられる。

2禁止 主人公にあることを禁じる
腐海の瘴気と狂暴な蟲たちが人間(=ナウシカ)に腐海で生きることを禁じる。
腐海と人間の住む世界は区分され、毒を持ち込まないよう徹底している。

3侵犯 禁が破られる
ペジテの避難船が風の谷に墜落し、胞子と蟲を持ち込む。

4探りだし 敵が探りをいれる
8加害(または欠如) 敵が家族のひとりに、害や損失をもたらす
トルメキアの侵攻により、族長ジルが殺される。
8(加害または)欠如 家族の成員の一人に何かが欠けている
ユパは「腐海の成り立ちを知りたい」と放浪していた→真理の欠如?
その一方で、ナウシカは腐海の植物は土と水が正常ならば毒を出さないと気付いていた。ユパはそのナウシカを見送らねばならず葛藤する。→ナウシカという解の欠如?

椥辻夕子
椥辻夕子

8加害または欠如 は、物語の流れ上、位置が繰り上がっています。主人公の出発の動機となる「欠如」の分析が甘いかもしれません……それが結末のあいまいさにつながっている。

5漏洩 敵が犠牲者について知る
敵=トルメキアが、犠牲者=主人公ナウシカの狂暴性を知る。

6謀略計 敵は犠牲者またはその持ち物を入手するために相手をだまそうとする
敵(トルメキア)は、犠牲者(ナウシカ=風の谷)に落ちた巨神兵の繭を入手するために「巨神兵があれば腐海を焼き払うことができる」とうそぶく。

7幇助 犠牲者は騙されて相手に力を貸してしまう
風の谷の民を人質にとられたナウシカは、トルメキア軍とともに戦列に加わる。

9派遣(仲介・連結の契機) 不幸または不足が知られ、主人公が派遣される
父の死によって族長となったナウシカは、風の谷を守るためにトルメキア軍に従軍。

10対抗開始(反作用) 探索者が反作用に合意もしくはこれに踏み切る
ガンシップの襲撃をきっかけに、探索者=主人公ナウシカはトルメキア軍から離脱する。

13主人公の反応 主人公は将来の寄与者の行為に反応
不時着した腐海の湖で寄与者=王蟲と遭遇。主人公であるナウシカだけが触手によって尋問される。

椥辻夕子
椥辻夕子

13も位置が繰り上がっています。
このシーンで、王蟲がクシャナにも少し触手を伸ばしていることに注目。クシャナ=偽の主人公なのでは?と考えた原点はここです。

11出発 主人公は家を後にする
家=風の谷、ミト爺たち。彼らから離れて、ナウシカは単身でアスベルを救出しにいく。

12寄与者の第一の機能 主人公は試練をうけ、魔法の手段または助手を授けられる
14呪具の贈与・獲得 魔法の手段を主人公は手に入れる

腐海のなかで攻撃的な蟲から逃げ、流砂に飲み込まれるという試練。落ちた先で、実は長い時間をかけて毒を浄化しているという腐海の秘密(=魔法の手段?)を得る。また、助手=助力者であるアスベルとも出会う。

椥辻夕子
椥辻夕子

腐海の秘密=魔法の手段、という解釈には異論が多いかもしれません。でも、物語を結末へと導くカギなのは間違いない。
アスベルが見つけてくるメーヴェも、二国間の空間移動に必要な魔法の手段といえるかもしれません。

15二つの国の間の空間移動 主人公が探しているもののある場所に、運ばれ、つれて行かれる
メーヴェに乗って、腐海からペジテ市へ移動。そこでアスベルの国の人びとと出会い、風の谷にいるトルメキア軍を駆逐するための作戦を知る。
さらに、ペジテの軍艦から風の谷への移動。物語は佳境へ。

16闘い 主人公とその敵が直接に戦いに入る
ペジテの船を襲撃しにきたトルメキアとの闘い。
ナウシカは単身で脱出し、風の谷へ急ぐ。
ペジテは風の谷にいるトルメキア軍を攻撃するため、王蟲の仔を使って群れに襲わせようとしており、ナウシカは体を張ってそれを阻止しにゆく。

17標づけ 主人公に標がつけられる、傷を負う
王蟲の仔を群れに返すため、ナウシカは輸送ポッドに突っ込む。
肩と足に傷を負い、さらに王蟲の血で真っ青に染まる=標

椥辻夕子
椥辻夕子

標(しるし)というのが、後に主人公と偽の主人公を見極めるキーファクターとなります。『ナウシカ』の場合は、「その者青き衣をまといて~」の予言を成就するため重要な標です。

20帰還 主人公の帰還
王蟲の群れに跳ね飛ばされたナウシカは、王蟲の慈愛によってよみがえる。
<エンドロール>
ナウシカは族長として風の谷に戻り、トルメキア軍やペジテ軍とも和解する様子が映る。瘴気をやわらげる術を持ち帰ったナウシカのおかげで、腐海のほとりでもマスクなしで過ごせるようになっている。風の谷には平和が戻る。捨て置かれたマスクのそばでチコの実が芽吹く。

 

「31の機能」については、原著の翻訳だけでは少しわかりにくいので、Wikipediaおよび参考サイトを見ながら表現をやさしくしています。

Wikipedia ウラジミール・プロップ

※参考サイト
●小方孝 研究論文 小特集 — 修辞の認知科学
プロップから物語内容の修辞学へ — 解体と再構成の修辞を中心として —
●薄味
登場人物たちの機能で分類する――プロップの「昔話の形態学」

エンドロール雑じゃない?もっと丁寧に結末を描いて!

映画版『風の谷のナウシカ』は、宮崎駿作品のなかでも3本指に入るくらい好きです。子どものころから数えれば、視聴回数は300回を超えていると思います。

それでも、何度観てもエンドロールで雑に描かれる平和的な結末には、モヤッとしてしまいます。

  • 父を殺したトルメキアのクシャナとなぜ握手?
  • アスベルの国だからとて、王蟲の群を放ったペジテは絶許では?
  • みんなマスクしてなくない? 瘴気どうなった?

なぜこんなにモヤモヤしてしまうのか。
今回、プロップの構造分析にあてはめてみて理由が分かりました。

それは、物語の結末が「20帰還」だけでまとめられているからです。

構造分析の観点からいえば、「16闘い」のあとには必ず「18勝利(敵対者が敗北する)」そして「19不幸または欠落の解消(初めの不幸または欠落がとりのぞかれる)」が必要なのです。

でも、映画版ではこの機能に当てはまるシーンが描かれていません。

「18勝利」について。
敵対者であるトルメキア(クシャナ)とペジテは、主人公ナウシカに敗北したわけではありません。必ずしも勧善懲悪のストーリーである必要はないのです。エンドロールの一幕を見る限り、

  • トルメキア→クシャナがナウシカと和解し、風の谷および腐海から完全撤退。
  • ペジテ→住む町を失ったため、風の谷が難民として受け入れ共存の道へ。

という感じでしょうか。トルメキアもペジテも赦し、平和的結末へ導くことができたのは、ナウシカが族長して大きく成長した証かもしれません。

椥辻夕子
椥辻夕子

お父さんを殺されて屈強な兵士たちを皆殺しにした、怒れるナウシカはもういない。怒りを収めた王蟲たちにも通じる

「19不幸または欠落の解消」について。
せめてこれを丁寧に描いてくれれば、モヤモヤしなくて済んだかもしれません。父を殺され、トルメキアに従軍したナウシカが旅で得たものは、「腐海は毒を浄化してくれている」という真実です。毒がなくなり安心して暮らせるようになった、という描写があれば救いになったはずです。

 

一応、エンドロールの画面からは、

  • 井戸らしきものを掘るナウシカたち=地表近くでも水が浄化されている?
  • 腐海のほとりを走るユパとアスベル、メーヴェで並走するナウシカはマスクをしていない=瘴気も薄くなっている?
  • ラストカットでは、捨て置かれたマスクのそばでチコの実が芽吹く=植物が生えるほど土壌が浄化された?

ということが想像できますが……エンドロールで雑に済ませるのではなくて、一言二言、希望があるよということを本編中で触れてほしかった! と思うのです。
ナウシカの復活=「20帰還」というフィナーレが、画的にも盛り上がり的にもクライマックスとしてふさわしいのも理解できますけどね。

 アニメ版で描かれているのは原作の2巻途中まで

『風の谷のナウシカ』の原作は、1982年から1994年までアニメージュにて連載されていました。1982年といえば、まだスタジオジブリができる前。映画版はその前身であるトップクラフトで制作されたのです。

製作開始当時、原作はまだ1巻のワイド版単行本が発売されたばかり。そのため、映画版で描かれているのは原作2巻の途中までの物語なんですね。

映画版のラストシーンが「なんか雑」なのは、まだ話が続くはずのところを無理やりまとめようとしたから。構造的に破綻してしまうのも無理ありません。

機会があれば、原作版についても31の機能に当てはめて分析してみたいと思います。

椥辻夕子
椥辻夕子

原作にしかない設定や登場人物はもちろんのこと、クシャナ殿下が第二の主人公であることは間違いないので、そこにも触れていきたいです。殿下大好き。

なお、映画版が公開されてからも原作の連載は続き、4度の休載を挟みながら12年にわたって描き続けられました。まさに宮崎駿のライフワークだったんですね。1994年の完結と前後して、宮崎駿氏の代表作でもある『もののけ姫』の企画が始まっています。

自然に淘汰される人間を描いた『ナウシカ』と、自然を淘汰せんとする人間を描いた『もののけ姫』を比較してみると、共通点だけでなくあえて対比的に描かれた項目も多いです。

ナウシカはサンとアシタカに分裂し、クシャナはエボシとして再び描かれました。自然=腐海の毒を克服したナウシカたち、自然=神々の住む森を削りながら製鉄を営むタタラ場。ドロドロに溶け落ちた巨神兵と、ドロドロに拡散し命を奪うシシ神の本体。

そのあたりの比較分析も、いずれ行ってみたいと思います。

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おまけ:作家志望はプロップの「昔話の形態学」を読め!

私がウラジミール・プロップを知ったのは、大塚英志氏の著作です。

ストーリーメーカー 創作のための物語論』(星海社新書 2013年)と『キャラクターメーカー 6つの理論とワークショップで学ぶ「つくり方」』 (星海社新書 2014年)を読み込んでハマり、とうとう図書館で原著を借りて読みました。

原著である『昔話の形態学』(ウラジミール・プロップ著/北岡誠司、福田美智代翻訳)は希少で、個人で買うには手が出ない価格&古本屋等ではまず見つからないのが残念です。幸運にも、京都市図書館には蔵書があります。公立図書館ならば取り寄せや複写などの相互利用もできるので、興味のある人はぜひ問い合わせてみてください。

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